読書

【読書ログ】予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

※個人の理解と感想です。

読もうと思ったきっかけ

購入は2021年11月。何度か読み直しているものの、読了できていなかった一冊。

面白かったのだけれど、章ごとに区切りがあって途中で止めやすかったのと、単純に全体が長くって。

けれど、隙間時間に読む本をタブレット内で探していて、面白かったという記憶だけはあったので再読を決意!

行動経済学に興味をもっていたのは「人間は必ずしも合理的な行動をとるわけではない」という前提が面白そうだと思ったから。

自分は周りから合理的と評されることが多かったけれど、自分では非合理的な行動も多い自覚があった。

だからこそ、経済学では説明ができない非合理的な行動をとる人間の心理や感情を心理学の分野から検証するという「行動経済学」の世界を覗いてみたいと思った。

そんな行動経済学の中でも非常に有名だった(Amazonのレビューは2300件越え)本書を購入。

出版日・著者・構成

出版日は2013年8月。

著者のダン・アリエリー氏は18歳の時に事故で大やけどを負う。

以前は当たり前だった日々の行動を第三者のように外から観察するようになった。

入院時の入浴では筆舌を尽くしがたい包帯の交換を日々受けながら、看護師たちの交換方法が最善ではないように感じていた。

長期退院の際に大学で大脳生理学を学び始め、研究を通じて、豊富な経験をもってしても変えられない特有の先入観(悪意や怠慢ではなく)が、患者の痛みの正しい認識を邪魔していることに気づく。

著者は、このきっかけをもとに、痛みの研究から視野を広げ、経験を積んでも学ぶことなく失敗を繰り返してしまう状況について研究しようと決めた。

本書では、私たちがみんなどのように不合理かを追求することが目的で、この問題を扱う学問分野が心理学と経済学の両側面を持つ「行動経済学」というわけだ。

構成は全15章、423ページ。

  • 第1章:相対性の真相(なぜあらゆるものはーそうであってはならないものまでー相対的なのか)
  • 第2章:需要と供給の誤謬(なぜ真珠の値段はーそしてあらゆるものの値段はー定まっていないのか)
  • 第3章:ゼロコストのコスト(なぜなにも払わないのに払いすぎになるのか)
  • 第4章:社会規範のコスト(なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらったとたん楽しくなくなるのか)
  • 第5章:無料のクッキーの力(無料!はいかに私たちの利己心に歯止めをかけるか)
  • 第6章:性的興奮の影響(なぜ情熱はわたしたちが思っている以上に熱いのか)
  • 第7章:先延ばしの問題と自制心(なぜ自分のしたいことを自分にさせることができないのか)
  • 第8章:高価な所有意識(なぜ自分の持っているものを過大評価するのか)
  • 第9章:扉を開けておく(なぜ選択の自由のせいで本来の目的からそれてしまうのか)
  • 第10章:予測の力(なぜ心は予測した通りのものを手に入れるのか)
  • 第11章:価格の力(なぜ1セントのアスピリンにできないことが50セントのアスピリンならできるのか)
  • 第12章:不信の輪(なぜわたしたちはマーケティング担当者の話を信じないのか)
  • 第13章:わたしたちの品性についてその1(なぜ私たちは不正直なのか、そして、それについて何ができるか)
  • 第14章:わたしたちの品性についてその1(なぜ現金を扱うときの方が正直になるのか)
  • 第15章:ビールと無料のランチ(行動経済学とは何か、そして、無料のランチはどこにあるのか)

内容①:第1章から5章!

とにかくボリューミーなので、1~5、6~10、11~15章に分けて記載したが11~15章は超簡略版(記事が長くなりすぎたので)…

第1章は、私たちの選択は絶対的な価値ではなく、相対的な比較によって決まるという内容。

価格や価値を判断する際、人は他の選択肢との相対的な違いに影響を受ける。

最初に示されているのは、雑誌の購読プランの例。

①ウェブ版(59ドル)、②印刷版(125ドル)、③印刷版+ウェブ版(125ドル)という3つの選択肢を提示されると、③を選ぶ人が最も多い。

しかし、①、③の2つだけだと、多くの人は①を選ぶ。これは「おとり効果」によるもの。

無意識に比較を基に決定し、合理的に最適解を選んでいるわけではないことを示す実験が他にも複数紹介される。

第2章は、人は最初に提示された数字(アンカー)に影響されて、その後の判断を行うという内容。

実験では、社会保障番号の下二桁を見せた後、オークション価格を決めさせると、オークションとは全く関係ない社会保障番号が高い人ほど高い値をつけた。

つまり、無関係な情報でもアンカーとなって意思決定に大きな影響を与えうる。

一方、アンカーの効果を理解していたスターバックスが、他とはかけ離れた経験を提供することで、顧客がダンキンドーナツの価格をアンカーに使わず、スタバが用意した新しいアンカーを受け入れるよう全力を尽くした話などが紹介される。

第3章は、無料には特別な心理的影響力があるという内容。

例えば、「1セントのキスチョコ」と「15セントのリンツのトリュフ」をどちらか選んでもらうと、品質の高いリンツに軍配が上がるのに対し、同じ1セントだけ値下げして「無料のキスチョコ」と「14セントのリンツのトリュフ」にした途端キスチョコを選ぶ人が圧倒的に増えるという実験が紹介される。

これは、「無料」であれば何かを失う恐怖を感じなくてよいことが理由。当然、実際には無料が最適の選択とは限らない。

同様に紹介されているのはアマゾンフランス支社の具体例。

他国のアマゾンが一定額以上での注文で配送料を無料にするというサービスで売り上げ増加に成功。、

しかし、フランスでは一定額以上の注文で、配送料を1フラン(当時20円位)に設定。

その結果、わずか1フランにもかかわらず売り上げが全く増えず、無料にしたら売り上げが劇的に増加したという話。

第4章と第5章は、社会規範と市場規範という二つの異なる世界に関する内容。

友情・好意・職業への誇りや義務など金銭以外がベースの社会規範と金銭がベース市場規範

とある課題に取り組む際に、純粋な頼み事として依頼した場合(社会規範)と、金銭という報酬がある状態で依頼した場合(市場規範)では、前者の方がより多くの課題をこなしたという実験が紹介される。

また、託児所のお迎えに遅れてきた保護者に罰金を科すことの有効性を調べた調査では、罰金ありの方が遅刻する親が多くなった。

罰金の導入以前は、先生と親の関係の間で遅刻には社会規範があてはめられ、親は遅刻するという罪悪感から時間通りに迎えに来ようというモチベーションになっていた。

しかし、親は罰金を科されていることで罪悪感を感じなくなり、つまり罰金によって社会規範が市場規範に切り替わり、遅刻が増えたということ。

さらに興味深い結果として、罰金制度を廃止後も、遅刻する親の数が変わらなかった。

つまり、社会規範が市場規範と衝突して負けた場合、社会規範はまず戻ってこない。2つの世界の共存はありえない

ビジネスシーンや恋愛関係においても、2つの世界は共存できず、市場規範を持ち出すべきではない場面が複数紹介される。

さらに、第5章では第3章で取り上げられた「無料」の力に再度フォーカスがあてられる。

第3章では、「無料」が「1セント」に比べて圧倒的に多くの人を引き付ける力があるという話だった。

しかし、第5章では「無料」は引き寄せる人の数は確かに多いが、「1セント」に比べ一人当たりが持っていく数少なくなるという結果が示される。

例えば、クッキーを無料で配った場合と1セントで配った場合を比べると、無料の方が一人が取る枚数が少なくなった。

第3章で示されたリンツとキスチョコの実験でも同様の結果だった。

無料になると、社会規範が人々に他者の幸福を思い出させ、結果として利用できる資源(この場合はクッキーの総数)に負担をかけすぎない程度まで消費を抑えさせるということだ。

内容2:第6章から10章!

第6章は、人は冷静な状態と性的な興奮状態とでは判断が大きく異なるという内容。

実験では、性的な興奮状態では、避妊なしの性行為や違法行為などリスクの高い行動を(冷静な状態ではあり得ないと考えていても)受け入れやすくなることが示された。

第7章は、人は長期的な利益よりも目先の快楽を優先しがちになる「先延ばし」に関する内容。

ダイエットや貯蓄といったわかりやすい例に加え、学生のレポートの提出期限を①学期の最後までに提出すればよい場合、②自分で宣言した締め切りまでに宣言した場合、③強制的に決められている場合の3つに分けた実験も紹介される。

結果は、③、②、①の順で成績が良かった。

この実験では、学生は確かに先延ばしをする、自由を厳しく制限するのが先延ばしに最も効果があることがわかる。

さらに大きな発見は、締め切りを自分で決めて決意表明できるようにしただけで、いい成績をとる助けになったということ(②の方が①よりも成績が良い)。

つまり、自制心を働かせるために、事前に決意表明をするだけでも効果があるという改善策まで示されている。

第8章は、人は一度手に入れたものを実際の市場価値以上に評価する傾向があるという内容。

本書では抽選があったバスケットボールの試合のチケットを抽選に当たった人にはいくらで売りたいか、外れた人にはいくらで買いたいかを調査した実験。

結果は、売値は、買値の14倍もの値段設定がされた。

所有意識が、所有者とそれ以外でチケットの価値への見方に大きな乖離を生じさせた。

自分の所有物を過大評価してしまう傾向は、人の基本的な偏向であり、自分自身に関係のあるものすべてにほれこみ、過度に楽観的になるというもっと全般的な性質を表している。

多くの人は、自分が高コレステロールに悩んだり、離婚したり、駐車違反切符を切られることはあまりないと思っている。

自分にこのような先入観があることを自覚して、他人の意見に耳を傾けることをしようと結ばれる。

第9章は、選択肢が増えすぎると人は決断を避ける傾向があるという内容。

選択の自由が本来の目的を忘れさせてしまうことが示された実験が紹介される。

具体的には、賞金の範囲が決められた部屋につながる3つの扉を選ぶゲームで、最大の賞金を稼ぐための行動をとってもらうよう参加者に依頼する実験だ。

最大の賞金を手にするには、最も高い賞金の範囲が用意された部屋につながる扉を見つけてその部屋に入り、その部屋の中でたくさんクリックをすればよいだけだ。

別の扉を一定数クリックすると他の扉が消えていくというオプションが加わると、参加者はすべての扉を残すために、扉から扉を次々に行き来し始める。

あくまでも賞金の「範囲」が決められているだけなので、どの扉が最大の賞金を得られるかの確信は持ちづらい。

しかし、別の扉をクリックしている間に1つの部屋の中でより多くクリックしたほうが確実に賞金が手に入る。

そして実際に、扉が消えるというオプションがあった場合、ない場合に比べ獲得賞金はかなり少なくなった。

また、扉が消えても復活できるというオプションが加わっても、扉を消さないように努力してしまう人が多数現れた(いつでも復活できるのに失うことに耐えられない)。

このように、本来の目的から言えば無用な選択肢を追い求めたくなる不合理な衝動が人間にはある。

与えられた選択肢からを1つに絞ることで生じる違いは、実はほんのわずかだと思えると楽になる。

そして、本来の目的を再確認し意図的に選択肢を減らすことを意識しないと、決断をするまでに失うものが多くなってしまう。

例えば子どもの写真を撮るために最善のカメラを選ぶために時間をかけたとしたら、機種を悩んでいる時間でより多くの写真を撮る方が有意義だ。

第10章は、行動や感じ方が事前の予測(先入観や予備知識)に影響を受けやすいという内容。

この章で示されるのは、予備知識の有無で感じ方が変わることを示す実験。ビールやバイオリンの演奏が使われる。

良いと感じるか否かの違いが、事前に情報が与えられているか否かに依存するのだ。

1つ目は、市販品に酢が入っており実験場所である大学名を含む名前が付けられたビールと市販品のビールを飲んでどちらがおいしいかを選ぶ実験。

酢が入っていることを知らない場合は酢が入ったビールを、あらかじめ知っている場合は市販品を選ぶ人が多くなった。

事前に酢が入っていると聞くといかにもまずそうだと感じ実際に感じるおいしさも影響を受けてしまうが、知らなければ味の違いには気づかず大学名が入っているビールを市販品よりも選ぶ人が増えたということだ。

2つ目は、世界的に著名なバイオリン奏者が駅の雑踏で演奏した場合、気づく人がいるかどうかという実験。

実際ほとんどの人は気づかず1時間で数十ドルのカンパしか得られない。

しかし、名前を明かして高級なホールで演奏する場合はとても高級なチケットを売る実力のあるバイオリニストなのだ。

このように、前もっておいしそう、素晴らしそうと信じた場合、実際にその通りに感じる割合が上がることが示される。

予測(先入観や予備知識)がその後の行動や感じ方にに影響を与えるからこそ、中立的な第三者の存在が重要という話も加わって章が結ばれる。

内容3:第11章から15章!(長すぎるので簡略版!)

第11章は、高いものの方が価値を感じやすいといったプラセボ効果に関する内容。

効果があるといわれている手術を施すという説明を行い実際に施した場合と施さない場合とで術後の経過を比べるとどちらも同じだったという衝撃的な実験等を例に説明される。

第12章は、信用の度合いが人の行動に影響を与えるという内容。

信用は貴重な公共財で失うと長期的なマイナスを発生させるし、利己的な悪いプレーヤーのせいで一度でも不信に陥ると、不振の輪が広がり一時的に得をしていた利己的なプレーヤーも含め場の全員が損をする方向に進む。

第13章は、人々の正直さに対する理解を深めるための実験が紹介される。

とあるテストで不正をしたことばれる可能性がある場合(ばれない可能性もある)、全くない場合を用意する。

そもそも不正ができない状況に比べ、上記2つの不正が可能な状況では点数が高くなるが、不正がばれる可能性の有無において点数に大きな乖離はなかった。

次に、正直になることを何らかの形で決意表明させると、不正が一気に減るといった例が示される。

人々はチャンスがあれば不正をするが、その程度は大きくはない。そして、いったん正直さについて考えだすと(決意表明など)不正を完全にやめる。

第14章は、現金ではないものに比べ現金を扱う方が不正行為が少ないという内容。

紙幣の引換券を用いた実験や、電子商取引における不正の例が紹介される。

第15章は、これまでの総まとめとなるような不合理さを示すビールの注文実験が紹介され、経済学と行動経済学の違いを結ぶ。

様々な種類のビールを選択できる場合、自分が最も飲みたいビールを注文するのではなく、独自性の表現に関心が高い人ほど誰も頼んでいないビールを頼むことで個性を示そうとする傾向が強いことが分かった。

経済学は人間の決断はすべて情報に基づいた合理的なものであるという仮定のもとで、市場の誰もが収益や経験を最大・最高にしようと努めると考える。

しかし、行動経済学では人が身近な環境から余計な影響を受けやすく、関係のない感情や浅はかな考えなど多様な形の不合理性にも影響されやすいと考える。

私たちは自分が何の力で動かされているかわかっていないにもかかわらず、自分でコントロールしている気になっている。

この教訓を踏まえ、不合理の発生を受け止めることに加え、発生する状況を理解しておけば、不合理を発生させない手段を検討することも可能なのではないかと結ばれる。

感想

やっぱり面白かった。読んでよかった。

自分の選択が常に合理的であるなんて勘違いはせず、自分の選択を客観的に考え直すステップの重要性を理解した。

特に主に自分がモノやサービスを利用するときに発生しやすい不合理をいくつもの事例で理解できたので、考え直すきっかけを得られたと思う。

反対に、自分がモノやサービスを考える立場(例えばマーケティングとか)に立った時等、自分の望む方向に誘導するためのアイディアとしても覚えておきたいと思った。

また、意外性のある実験結果ばかりに目が行ってしまうが、非合理的な行動が生じる理由の仮説を立て、証明するための実験方法を思いつくところがすごいと思った。

自分も大学院でこのプロセスをやってきたつもりだったけれど、人を相手にする実験の設計ははるかに難しそうだと思った。

その辺りも読んでいてとても面白かった。

2024年5月に同じ著者で「不合理だからうまくいく 行動経済学で「人を動かす」」という本が出版されているので、そちらも読んでみようと思う。

プラス

章ごとにちゃんと学びがあって、心に留めておきたい一文や内容ばかりだった。

第1章では「人は持てば持つほどいっそう欲しくなる。唯一の解決策は、相対性の連鎖を断つこと」という一文。

第2章では「自分の決断がほんとうは直感、つまり胸の奥底で臨んでいるものからきている場合、わたしたちはときに、その決断が合理的に見えるように仕立てたくなる」という一文。

第9章の選択肢の多さが決断を遠ざけるという内容も、ふるさと納税の返礼品を選ぶときにいつも感じる(笑)

選択肢が多すぎて先延ばしにしてしまうことが多々ある。

どれも納得できる具体的なストーリーや実験と共に紹介されており、心に残る。

余りに豊富な内容に、心に残った一文の背景にあるストーリーや実験を書ききれないので、ぜひ再読したいと思った。

マイナス

長くて読み切るのも書ききるのも大変だった。

似通った章をもう少しまとめてもらった方が理解もしやすいしすっきりはしそう。

けれど、全体の連続性の重要度は低く、様々な実験を通じて結論が紹介されるスタイルが面白いので、時間に余裕があるときに読むべき一冊。

タイトルから興味のある章を選んで読んでいくスタイルの読書が吉。

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